ジェラシー


「先輩」

俺(海堂薫)は風呂から上がると、髪の毛をタオルで拭き拭き、ソファーで専門書を読んでいた乾先輩に、後ろから声をかけた。

「何?」

区切りのいい一行を眼で追いながら、先輩がゆっくりと顔をあげた。

「俺、明日、帰り遅いから……」
「………ん?」
「桃城と、飲む約束してて……」
「そう。わかった」
「だから、夕飯もいらないッス」
「うん。」

絡まる視線にまだ、なんか言いたかったけど……俺は何も思いつかなくって、ありきたりの言葉を発した。

「先輩、まだ寝ないんスか?」
「あぁ、あと、ちょっと。これ読んじゃわないと、困るんでね」
「そうッスか。じゃぁ、俺、明日、朝一の講義入ってんで、先に寝ますから……」
「うん、おやすみ」
「おやすみなさい」

それだけ言うと俺は、寝室に入った。

「やるせないんだけどねぇ……」

そう言って、先輩がソファーに頭を預けて、仰け反って、大きな溜息を吐いているなんて、知らなかった。





俺が大学に入る頃、先輩の親の転勤決まり、先輩は大学の近くで一人暮らしを始めると言い出した。
そして、先輩は、俺に、一緒に住まないかと持ち出した。
幸い俺の決めた大学も、先輩の大学に近かった。無理をすれば、俺は実家から通えなくはなかったが、先輩と一緒にいられるのは、魅力的だった。何故って、俺と先輩は、中学の時、お互いの気持ちを確かめ合い、付き合い始めた。高校の頃には、親の目を忍んで、俺と先輩は大人の関係もあった。

なんとか、屁理屈、理屈を捏ね繰り回して、俺と先輩は、親達を納得させ、同居を始めた。
あれから、かれこれ、3年。


明日の飲み相手の桃城とは、中学からの腐れ縁だ。
高校までは、青学で一緒だったが、お互い外の大学を受けた。
体育系の大学に通う桃城と、結局は親の勧めで経済に通っている俺。
今となっては、接点は、殆ど無いのだが、まぁ、月一の割合程度で、会っている。
別に、桃城とは、特別な関係は無い。単なる近況報告会みたいなもんだ。
大体、奴は、俺と先輩の関係も知っているし、先輩だって桃城の事はよーく知っているから、全く問題は無い筈だ。
桃城のあのバカさ加減は中学時代から全く変わってなくって、多少の苛つきはあるのだが、奴が俺の性格を知っているだけに、飲んでいて嫌じゃない。それに、奴の情報網は、先輩とは別の分野で広く、かなり面白いネタが入ってくる。元不動峰の神尾とか、ルドルフ大の不二裕太の事とか……青学で下級生だった女の子の話とかも。

あのバカは、たまに、飲んでる最中に、話題の本人を携帯で呼びつけたりするから、桃城と飲んだ時は結構遅くなる。
こういう関係が奴らと続いているのは、やっぱり要の桃城がいるからで、俺も、桃城をダチとして大切だと思っている。



今日も、一通りのバカ騒ぎをして、深夜過ぎに帰宅した。
先輩は寝てしまっているようで、灯りが消えてた。
酔いが回った身体がなかなか言う事をきかないが、何とかシャワーを浴びて、ダブルのベッドに潜り込んだ。
静かに入ったつもりだったが、ギシッとスプリングが軋んだお陰で、先輩が眼を覚ましたようだ。

「おかえり」

そう言うと、先輩が俺を抱きこんだ。
寝ぼけ声が、また、この人はエロいんだよ。

「楽しかった?」
「まぁ……」

先輩が、半渇きの俺の髪に鼻を押し当てる。

「まだ、ちょっと酒臭いな……」
「じゃぁ、くっつくなよ」
「やぁだ」

そう言うと、先輩は、俺の耳を噛んだ。

「……っつ、痛ぇよ」
「当ー然。痛くしたからね」
「って、なんで……?」
「教えない」
「はぁ?」
「お前は、解らなくって、いいよ」
「……っく……うっ……せ、先輩……」

先輩の唇が俺の首筋を這ったかと思うと、口が塞がられた。
先輩の舌が俺の口内を掻き乱すと、酒で麻痺した身体が火照りだす。
アルコールの回った気だるさで、頭は朦朧とし、いつものようには動かない身体が焦れて、身体の中の熱さだけが増す。
先輩の大きな手が俺の脇腹をなぞると、肌が粟立つ。
先輩の唇が徐々に下へ這い、胸の突起を捕らえる。舌先で弄ばれ、転がらされ、甘噛みされると、知らずと身体が跳ねた。
俺自身は、既に、先輩の手の内。
酔った身体は、かなり素直で……先輩の巧みな指捌きで……登りつめるスピードを増す。
そして、麻痺した思考回路は、スパークと共に、飛んだ。



そんな海堂の頬を、乾は愛しげに撫でた。

「海堂、ごめん。」

そして、自嘲した。

「俺のこんな嫉妬深さを、お前は知らないだろうなぁ」

乾の眼は、ちょっと哀しげだ。

「バカだとは知ってても、今晩海堂と共にいた連中が許せなないんだよね」





数日後、二人して並んでソファーに座り、娯楽番組を見ていると、先輩の携帯が鳴った。

「やぁ、久しぶりだな、蓮二」

『蓮二って……立海大の柳蓮二さんか……』

柳さんと先輩が幼馴染であり、ジュニア時代にはダブルスを組んでいたのを知っている。
そして、かなり仲が良かった事も……。なんて言ったって、以前、先輩のデスク周りの棚には二人で優勝した時の写真立てが飾ってあった。あの写真を見るたびに、俺の知らない先輩を知っている柳さんに妙に腹が立った。そして、何度も俺は写真立てを伏せた。そんな俺に先輩は気遣って、そのうち写真立ては片付けられた。
でも、こうやって、たまに柳さんから電話がかかってくる。

やけに楽しそうな先輩の声に、片眉がピクリと動く。

話が長くなると、先輩は、必ず自室に移動する。
ドア越しに話し声が、ずっと聞こえる。
かれこれ一時間位、話した頃に、やっと先輩が携帯をたたみつつ戻ってきた。

「海堂、明日、俺、柳と飲んでくるから」
「そうッスか」
「うん、悪いな、先に寝てていいから……」

そう言って、先輩は俺の横に座り直すと、俺の髪を撫でた。
俺は、無下にその手を払いのけ、席を立った。

「………ん?」

と、きょとんとする先輩に、

「風呂、入ってきます」

とだけ言って、その場から逃げた。
何か、もやもやする。
柳さんと親しくする先輩に、腹が立つ。
あの二人が、現在は勿論、過去だって何も無かった事は知っている。
けど……虫唾が走る。
俺……どうかしている…。





次の日の晩。
ガチャリと玄関のドアの音がした。
先輩が、帰って来たんだ。
薄明かりの中、時計を見ると深夜を回っいる。

なんか気持ちが落ち着かなくって、何も手につかなくって、仕方無しに10時にはベッドに入ったのに、結局は眠気も起きなくって、広いダブルベッドで一人淋しく布団に包まっていた。眼に入る先輩の枕が……妙に苛立ちを起こさせる。
何に、俺は腹を立てているんだ……?

がたん、がたんと物音がする。
いつもは音も無く動くあの人が、かなり酔っているのか、あの巨体をあちこちにぶつけているようだ。

『なんで、そこまで酔ってんだよ!』

シャワーの水音がして暫くすると、寝室のドアが開く音が俺の背後でした。
俺は動かず、寝たふりをした。
ギシリとスプリングが軋むと、俺の頭に先輩の手が触れる。耳元に顔が寄せられると、寝ている俺に『ただいま』と小さく囁いた。俺は、更に、瞼をきつく瞑った。
俺が寝ていると思った先輩は、直ぐに仰向けにひっくり返ると、満足げに『ふーーーっ』と大きな息を吐いた。

『酒臭ぇよ!!!』

心の中で叫んで、ギリッと奥歯を噛んだ。
暫くすると、スースーと、心地良さそうな寝息が聞こえ出した。

俺は起き上がり、先輩の顔を覗き込んだ。
幸せそうな寝顔が、妙に憎らしく見える。

「なんなんだ! くそっ!」

何をそんなに苛付いているのか? 自分の感情をもてあましている。
心地良さそうな寝息。いつもと違った少し赤らんだ顔。幸せそうに微笑みまで湛えるように見えるのは俺の見間違いか?
拳を握り締めて、ぐっと堪えていたが、どうしても腹の虫が治まらない。
遂に、先輩の綺麗な鼻筋に噛み付いてやった!

「痛っ!」

流石に、深い眠りに落ちていた先輩も眼を覚ました。

「か、海堂? 何?」

鼻を押えて、先輩が怪訝な顔をする。当然といえば当然だ。
そのまぬけ顔に、更に苛付く。

「知るかっ!」

俺は、先輩に背を向けて、布団を被った。

「俺自身だって、解んねぇんだよ!」

「ふっ」と先輩の微かな笑いが聞こえた。かと思うと、直ぐに耳元で囁かれた。

「海堂、教えてあげようか?」

そのエロい声に、背筋に緊張が走る。
『何言ってんだ、この人? 俺自身が解らない俺をなんで、あんたが解るんだよ!』

直ぐに、首筋に先輩の吐息がかかる。
後ろから抱え込まれ、既に先輩の手がパジャマの上着の下に滑り込んでいる。
脇腹をなぞるように上がってきた手が胸元を捉える。掌で擦られると、胸の突起が直ぐに硬くなる。それを確認するように、指先で摘まれると全身に痺れが走り、吐息が漏れた。

「あっ……」

更に、この一言に気を良くした先輩の指が、巧みに動く。

「ちょ、ちょっと……あっ………」

首筋に熱い吐息と柔らかな先輩の唇を感じる……耳を甘噛みされると……力が抜ける……。

「海堂……」

先輩が呟いた一言と共に酒臭さが鼻をつき、俺は我を取り戻し、先輩を払い除けた。
半身を起こして、キッと先輩を睨んだが、先輩は、にっこりと微笑んでいる。
無性に腹が立つ。

「酔った勢いで、じゃれ付いてんじゃねぇよ!!!」

感情とは裏腹に、しっかり感じてしまった自分の身体が恨めしい。

「海堂……かわいいよ」

そう言うと、先輩は今度は正面から圧し掛かってきた。
あの巨体に乗っかられると、身動きが取れない。もがく俺を他所に、先輩が再び耳に唇を寄せて囁く。

「今日は、特に可愛い……。本当に、今日は嬉しい事がいっぱいあるな」


『今日は嬉しい事がいっぱい……』

カチンとくる。

「そんなに、柳さんと会っていたのが、楽しかったかよ!」
「それが、海堂の本音?」

知らずに口した言葉。俺、何を言ってんだ?

「海堂……それをなんて言うか知っている?」
「ふんっ」

自分の失言に、顔が火照り、背けた。

「ジェラシー………って、言うんだよ」

先輩のエロさを増した声に、真っ赤になる。そんな……バカな…。
先輩の唇がそのまま首筋を這い、喉仏を過ぎ、鎖骨をなぞると、肌が冷えた空気に晒されてひやりとした。いつの間にか、パジャマのボタンが外されている。左の乳首が、先輩の口に捕らえられると、ジンッと腰に痺れが走った。右の乳首も、指先で揉まれている。

『ジェラシー……ジェラシー……』

頭で繰り返される言葉に、『俺が?』と疑問を持つ一方で、身体は快楽だけを求め始めている。

暫くすると、温もりが身体から離れるのを感じた。先輩を見ると、更に、顔面が壊れている。

「海堂……おまえ、可愛いよ。」
「な、何言ってんスか?!」

こんな厳つい俺を見て、可愛いって単語がどこをどうすると沸いてくるのか、いつもながら解らねぇ。

「俺が愛しているのは、お前だけだよ」

って、あんた……。

そのまま、落ちてきた接吻は、甘くて…ディープで……
あぁ……ちょ……ちょ…っと……
絡められた舌が……はぁ……は…ぁ…………あまりに激しくて……
唾液さえ飲み込めない………
せ、先輩………あんた……何言ってんだよ……

「お前が嫉妬してくれるのは……嬉しいけど…………それは、俺を疑ったって……事だよねぇ?」

って、キスの合間に言ってんじゃねぇよ!

「ちが……ちが…う……俺は嫉妬なんて……して…ねぇ……」
「嘘をつく子は……もっと………お仕置き……」
「うっ!」

言うなり、人のモノを……握るな…って……
そ……そん…なぁ………はぁ………あんた……その指使い………
やめ……やめろ…よ……ぉ………

「あぁ………」
「ここ………感じるでしょ?……」
「うっ………せ、先輩……」
「何?」
「あ………あぁ……」
「もっと……感じさせて………あげ…る…よ……」

って、先輩の頭が下がっていくって……ことは………
痛っ………腰骨の辺りに………ぜってぇ、ついた……キスマー…
「……ああっ!!!」
そ…そんなぁ………うわっ………うっ………先輩の舌が…俺の先に……
あっ……そこは………うっ………先輩の…口の中……熱い………
「あぁ………」
……はぁ………その動きは………あ…あぁ…………

「せ……せん…先輩………」
「まだだよ………」

先輩の唾液と……俺の先走りが………後ろまで………濡らす……

「あっ………」

ゆっくりと……先輩の手が……後ろに回されて………
尻の間に……割り込んでくる………
あぁ………ひくつきだした場所に……指が………
そこ………そこ………焦らす…なっぁ……

「…あぁ………っ!」

最初に…指が入る瞬間……その刺激が………たまらなく………

「あぁ……せ、先輩………」
「ん?」

ゆっくりと……俺の中で動く指………
快楽を知ってしまっている身体は………先をせがむのに……

「もっと……奥………」
「解ってる……」

先輩は……俺を…気遣ってくれているのかもしれないが……欲望に歯止めは効かない…。
その先の快楽を求めて……俺は、先輩のモノに触れた。
既に、先輩も硬くなっていて………脈打っている………いつもながら…この大きさを受け入れているのかと思うと………多少の驚きはあるが………これでなくては、いまや満足できない自分が………いる。

「ああぁ………」

2本に増やされた指と………的確に的を突いてくるその動きに………
登りつめそうだ……。

「薫……手…離して……」

自分がして欲しいように、先輩のモノを………擦っていた。先輩の先走りが……量を増している……。

「先輩……」

懇願する俺に、先輩も頷いた。

「俺も、そろそろ限界。お前、俺のを可愛がり過ぎ。……いいか?」

俺が頷くと、先輩の先が、受け入れ口にあてられた。
こそばゆい……あぁ……快楽……

「あああああぁ………!!!」

念入りに解された場所が……ぬるりと…簡単に先輩のモノを飲み込む。
この瞬間が……たまらない…。

「お前の中……熱いよ……薫…」

薫…薫……薫………先輩に、そう呼ばれると……陶酔に拍車がかかる。先輩のリズミカルな動きが………今まで届かなかった快楽の頂点を刺激する……。

「あぁ………も…っと………も…っと………」
「薫……俺は…お前の……お前だけの…もの………だから……なっ!」
「あっ……あぁ………あああああっ………さだ……は…る…っぅ!!!」


同時に……果てた。


先輩の体重が、圧し掛かる。心地良い気だるさが、睡魔を誘う。

「薫……お前が桃城達に会っている時の俺の気持ち、解った?」

ぼそりと言う先輩の声に、はっとする。そういう事か……。
桃城達と飲んできた日、先輩は、必ず、酔っていう事を利かない俺の身体を求める。
あんたって人は……ったく。
俺にしてみりゃ、よっぽど、あんたの方が、可愛いッスよ。

……って、俺も、かなりヤバイけどな。

 


コメント:
#13000hits キリリク。 あつ子様へ。
リクエストは、『七年後夫婦物、裏有りの甘い日常生活+薫のヤキモチ』。
だったのですが……『+乾のヤキモチ』でもあったりして……(^^ゞ
いや〜、こんな裏で、我慢してやってくださいませ。
本当に……いろいろというか、あんまりリアルには書きたくないのですよ。
この辺で、勘弁して〜ぇ。m(_ _)m

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