儚い想い
とある、眞魔国の夜。 「はぁ……今日もかなり、ハードだったなぁ」 肩を落とし、精根尽きた面持ちで、寝室に向かうのは、ユーリこと、渋谷有利原宿不利…と自ら、自分の名前を卑下する只今16歳の少年Aは、何を隠そう眞魔国の最高峰である魔王・ユーリ陛下である。 「確かに、ギュンターの言うように、俺がしっかりしなくっちゃいけないし、出来る事なら、魔王である以上、俺が全てを把握していなきゃいけないんだろうけど。成績はいつも中の中、十人並みの頭しかない俺には、ちょっとばかり荷が重いなぁ、……はぁ。それにしても、雑用が多いよね。」 そんな、例によって例の如く、ひとりブチブチと誰に言うでもなく零しながら、大きな扉を開いて、自分にあてがわれている魔王専用の部屋に入った。 疲れを癒すのは、やっぱり、風呂だろっと、湯船に浸かる。 「あーぁ、ここも、広いのはいいけどさぁ。無駄に広いよなぁ。専用ってことは、俺しか入らないのに、この広さ、この水の量。おまけに、何処のメーカーを使っているのか知らないけれど、24時間風呂だし…。井戸も枯れてる地方があるのに、国の主の魔王が、これでいい訳? やっぱ、違うよなぁ、間違ってるよなぁ。こんなに広いなら、銭湯みたいに、みんなで入ればいいのに。………な、なんか……疲れがとれない。やっぱり、こう言う時は、寝るに限るな。……あがろ。」 あまり、考えすぎてしまって、かえって、疲れたユーリ陛下である。 パジャマに着替え、ペタペタと裸足で歩くと、床が冷たくって、気持ちいい。 だだっ広い部屋に、ぽつんとは言いがたい、キングキングサイズのダブルベッドに、辿りつくと最後の力で、重い身体をダイブさせた。 ゴンッ 「「痛っーーー!!」」 「俺のベッドなのに、なんで、二重奏なわけ?」 と、ユーリが、肌掛けをピラリとめくると、いつもの如く…… 「ヴォ、ヴォルフラム!!」 「全く、なんていうベッドの入り方だ! お陰で、コブが出来ただろーが!」 「な、なんで、お前は、いつも、いつも俺のベッドに入っているんだよー!」 「それはだなぁ、こ、婚約者だからに、決まっているだろ…」 「あのなぁ……」 ユーリは、大きな溜息をついた。 「その件に関して、一度、きっちり、話したほうがよさそうだな」 「ぼ、僕は話すことは無いぞ! だから、寝る。そうだ、寝るんだ! お前も寝ろ! おやすみ!」 そう言うと、これ以上は聴きたくないとばかりに、ヴォルフラムは肌掛けを被ってしまった。 「いつも、いつも、そうやって、逃げるなよ!!」 ふだんなら、ここで終わる話も、今日のユーリは、グルグルと何一つ解決できない自分に嫌気が差していた為、止まらなかった。 再び、ヴォルフラムの肌掛けを引っ剥がした。 「お前は、どうしたいんだよ?」 見返すヴォルフラムに、続ける。 「俺なんかよりさぁ、よっぽど、ボン・キュ・ボンのお姉さんのほうが、いいんじゃないの?」 「そ、それは……」 「お前は、あれこれ言うけれどさ。見てくれは近いけど、お前は82歳で、俺はまだ、16歳な訳。人生経験なんて、ぜーんぜんないし、20年前の戦争についてさらりと語るお前に対して、俺は、その頃、影も形も無くって、存在すらしてない訳よ。そして、こっちの世界は、知らないことだらけ。“魔王になってやる!”って言っちゃった手前、俺はきちんと使命を果たしたいし、その為の勉強もしなくちゃならない。お前が思っているほど、何も考えていないわけじゃないんだからな!…それに、もてない歴16年のこの俺が、そうそう直ぐに変わるわけ無いじゃん。好かれるのは嬉しいけど……本当に本当?って思っちゃうわけよ。わかる?」 「う、うん。」 「だから…、お前が言うような浮気も……してない………って言うか……それ以前に、恋愛をしてないだな、これが……」 ユーリは、照れ隠しに、へらへらっと、頭を掻いた。 その言葉を聞いて、のぼせていたヴォルフラムは、顔を赤らめ、俯いた。 「ご、ごめん。ユーリ」 あまりのヴォルフラムの素直さに、言い過ぎたかもと、ユーリもちょっと後悔した。 「で、話は戻るけど、お前はどうしたい訳?」 「………」 「って、黙ってちゃ分からないだろ?! へへ……言われたところで、俺も、この世界の常識にどの程度ついていけるか分からないけどね。それと、もう1つ疑問が……。俺は、この先どうやって、年をとっていくんだろう? 地球時間? 眞魔国時間? 見てくれは、どうなるの? 地球で育ったから、16歳でこの容姿…って事は……?? だからって、こっちに来たからって、外見が若返るわけでもなし……?? こっちで暮らせば、眞魔国時間? でも、地球に家族が居るんだから、あっちに帰りたいしなぁ……?? でも、魔王だし…??」 話が、あらぬ方向へ……。 「……ユーリ」 「ねぇ、ところで、男同士で結婚した場合、子供は出来ないよねぇ? 俺、自分の子どもと、野球チームを作るまではいかなくっても、一緒に、野球はやりたいんだよねぇ。ん? 待てよ。一人っ子同士が結婚した場合は、そこで、家系が途絶えちゃうよねぇ???」 話が、脱線する……。 「ユーリ」 「もし、万が一、万が一に、俺らが結婚したら……。俺は、兄貴がいるし……、まぁ、ヴォルフラムの方も、グウェンダルやコンラッドがいるから……それに、ツェリさまがねぇ……まだまだ、現役のようですしって……あはは。大丈夫かぁ……とんだ取り越し苦労か……あはは」 ついに、ヴォルフラムの堪忍袋の緒が切れた。 「ユーリ!」 「うわっ!!んぐっ」 「………んっ」 「///////」 「少しは、静かにしろ! もう、夜中だ!」 「ヴォ、ヴォルフラム!」 「今日は、手っ取り早く、静かにしてもらっただけだ」 「あのなぁー!」 「これが、僕のしたい事だ。……もう、寝る!」 「///////……って、いきなりキスしなくっても……」 「いきなりじゃない。お前が、気付いてなかっただけだ。///////」 ヴォルフラムは、真っ赤にした顔をふいっと叛けると、ユーリに背を向けて肌掛けを被って寝た。 そして、ぎゅっと眼を瞑った。 「ヴォルフラム……?」 ユーリは、ちょっと、ヴォルフラムの思いが分かったような気がした。 でも、それに応えられる自信は、今は、まだ無い。 ユーリも、ヴォルフラムに背を向けて、横になった。 そして、ほんのちょっぴり、背中をくっつけた。 今は、それしか出来ない。 『ごめん、ヴォルフラム……』 ユーリは、心の中で呟いた。 ヴォルフラムも、それを感じ、さらに、顔を赤らめ、ぎゅっと眼を瞑った。 『今は……これだけで、いいさ。』 その、ほんのちょっぴり触れている背中が……とても熱い。 |
コメント:
#5000hits キリリク。 あつ子様へ。
お初の『今日からマ王!』SSです。
リクエストは、『ユーリ×ヴォルフラムで、砂糖か砂を吐けるほどの勢いの甘々』だったのですが……。
す、すみません。こんなんで…(T_T)。
『しっかり組み敷いて致して欲しいです』と言うご要望もあったのですが…、『ユーリ×ヴォルフラム』で組み敷くのは、今の段階では難しいかと…。
って、組み敷かないどころか、全く、ユーリが攻めてませんね。ごめんなさい。
でも、ユーリから、背中をくっつけたって所に、愛を感じてください。
長い前置きがありながら、肝心な所は、ほんのちょっとで、申し訳ない。
でもでも、これで、許して〜〜〜v
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